フリーランスのインボイス制度対策は?影響と対応方法について解説

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消費税の仕入税額控除の方式として、2023年からインボイス制度が導入されます。しかしながら、いままで免税事業者であったフリーランスへの不利益が取り沙汰されたりと、何かと話題になっています。フリーランスはこの制度にどのように対応していけばよいのでしょうか。
本記事ではフリーランスの制度対応について解説します。

インボイス制度とは

インボイス制度は請求書の発行・保管に関する新しい制度で、正式には「適格請求書等保存方式」と呼ばれます。

この制度の導入により、適格請求書(インボイス)に基づいた請求書でなければ仕入税額控除を受けられなくなるのです。

適格請求書とは、適用される税率や消費税額などが詳細に記載された書類です。買い手は売り手に適格請求書を交付し、買い手と売り手、双方がそれを保存しなければなりません。

以前の制度は、"区分記載請求書保存方式"と呼ばれていました。この制度では、取引先が発行した請求書であれば、仕入税額控除の適用を受けられました。

しかし、この制度への変更に伴い、請求書等に係る支払消費税は、取引先から発行されたものであれば、仕入税額控除の対象となります。

インボイスの要件とは

インボイスとして認められるのは、次の要件が記載されたものに限ります。

  • 事業者の氏名又は名称および登録番号
  • 取引年月日
  • 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
  • 税率ごとに区分して合計した対価の額および適用税率
  • 税率ごとに区分した消費税額等
  • 書類の発行を受ける事業者の氏名又は名称

ただし、税務署に「適格請求書発行事業者(以下、インボイス事業者)として登録されていない事業者は、発行できません。発行するためには、税務署に登録する必要があります。なお、免税事業者は登録の対象外です。

課税事業者と免税事業者の違い

課税事業者と免税事業者には違いがあります。課税事業者とは、年間の課税売上高が1,000万円を超える事業者のことで、消費税を納める必要があります。

免税事業者とは、年間の課税売上高が1,000万円以下の事業者をいい、消費税を納める義務が免除されます。しかし、免税事業者が適格請求書を発行するためには、税務署に「課税事業者選択届出書(以下、選択届出書)」を提出し、課税事業者となる必要があるのです。

仕入税額控除とは

制度の導入において、最も問題になるのが仕入税額控除です。消費税額は、売上税額(課税売上に係る消費税額)から仕入税額(課税仕入れ等に係る消費税額)を差し引いて求められます。仕入税額控除とは、消費税を計算する際に、預かった消費税から支払った消費税を控除することです。

【計算方法】

消費税額 = 売上税額 - 仕入税額

仕入税額控除が認められないと消費税の負担が増えます。インボイス制度が導入された後も仕入税額控除の適用を受けるには、一定の要件を守る必要があります。

インボイス制度のフリーランスへの影響

この制度は、フリーランスにも以下のような影響を与えます。

クライアントと取引が継続できない可能性がある

免税事業者のフリーランスの場合、クライアントに対して適格請求書を発行できません。クライアントが負担する税額が増えることになるのです。

クライアントとしては、自分の税負担を少しでも減らすために、免税事業者よりも課税事業者との取引を好むと思われます。つまり、免税事業者との取引を継続しない可能性があるのです。長い付き合いのある顧客は、取引を続けてくれるかもしれませんが、新規案件の獲得は難しいでしょう。

免税事業者として事業を継続できなくなり、年間課税売上高が1,000万円以下でも課税事業者にならざるを得ないケースが増えると予想できます。仕入税額控除に関しては、制度の導入から6年間は経過措置が設けられています。しかし、現実的にはいずれ課税事業者になる必要が生じる可能性は高いと言えます。

事務負担が増える

現在は免税事業者であるフリーランスが課税事業者にならない場合、売上が下がる恐れがあります。しかし、課税事業者になろうとすると、それはそれで事務負担が増えます。なぜなら、課税事業者やインボイス事業者になるには税務署に書類を提出しなければならないからです。

課税事業者の場合、年間課税売上高が1,000万円以下でも、記帳と消費税の申告及び納税をしなければなりません。取引先が本当に課税事業者かどうかをいちいち確認した上で税金の計算をしなければならないのです。

一定の要件下での適格請求書の保存も義務づけられます。これは発行した側も受領した側も同じです。適格請求書は電磁的記録での保存も認められていますが事務負担は増大するでしょう。

インボイス制度への対応方法

フリーランスがこの制度に対応するために必要なのは、次のような方法です。

課税事業者に必要な対応

課税事業者のフリーランスの場合、インボイス事業者登録申請書を税務署に提出します。受付は既に開始しているため、早めに対応しておくのが良いでしょう。さらに、適格請求書等の記載項目を理解し、帳簿や請求書等の記載内容や様式を変えなければなりません。

クライアントに対して改めて記載事項の確認が必要になるケースも考えられるので、制度が始まる前に対応しておく必要があります。

適格請求書等の内容を正確かつ効率的に記帳するためのITツールを導入するほか、適格請求書の詳しい記載事項を確認することも重要です。インボイス事業者として登録するだけでなく、その後のことも考慮して対応しましょう。

免税事業者に必要な対応

免税事業者のフリーランスの場合、そのままの状態では適格請求書を発行できません。クライアントとの取引において、免税事業者であることは不利になる可能性が高いです。

その点を考慮して、インボイス事業者になるかならないかを選択しなければなりません。

インボイス事業者になるためには、選択届出書とインボイス事業者登録申請書を提出する必要があります。経過措置の6年間の間に免税事業者がインボイス事業者の登録申請を行えば、選択届出書の提出は不要になります。

この場合、登録した日から課税事業者になることを覚えておきましょう。

課税事業者と免税事業者のどちらにも必要な対応

課税事業者と免税事業者のどちらにも必要なのは、インボイス制度に関する理解を深めることです。

この制度は2023年10月1日から開始されます。インボイス事業者として登録されるためには、2023年3月31日までに申請書を提出しなければなりません。

この制度の実施に伴い課税事業者になった場合、課税期間の初日から2年の間は免税事業者に戻ることはできないのです。2年の間に調整対象固定資産の課税仕入れ等を行い、本則課税で確定申告を行った場合は、3年間免税事業者に戻れません。

このように、現時点で課税事業者でも免税事業者でも、この制度に向けて必要な対応があることを覚えておきましょう。

下請法とインボイス制度

フリーランスがこの制度に対応するに当たって、下請法が関係してくる場合がありますので覚えておきましょう。

下請法とは下請代金支払遅延等防止法の略称で、大企業と下請け企業の取引が不公正にならないように立場の弱い下請け企業を守る法律です。資本金1000万円以上の企業とフリーランスの取引の際にもこれは適用されます。

例えばこの制度の開始に際して、以下のような対応を企業がすると下請法違反の可能性があります。

  • フリーランスにインボイス発行事業者になることを強制する
  • フリーランスがインボイス発行事業者でないことを理由に一方的に消費税分を減額する
  • フリーランスがインボイス発行事業者へ登録したことによる単価交渉を拒否する
  • インボイス発行事業者にならなければ取引を打ち切ると脅す

もしこれらのことを企業から強要された場合は下請法違反の可能性がありますので、厚生労働省や公正取引委員会、法テラスなど、しかるべき機関へ相談しましょう。

まとめ

インボイス制度は、2023年の10月1日から導入される予定です。現在フリーランスとして働いている方は免税事業者が多いと思われます。課税事業者への移行の過程でかなりの事務処理負担が予想されます。導入から6年間は経過措置が設けられていますので、無理に急ぐ必要はありませんが、前もって準備しておくのが良いでしょう。